大判例

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東京高等裁判所 昭和35年(行ナ)5号 判決

本願実用新案の考案の要旨は、請求原因第二項に記載されたとおりであるところ、これが、その出願前国内に頒布されていた刊行物にかかる同第一項の引用例に類似し、したがつて、旧実用新案法第三条第二号の規定に該当し新規性を有しないかどうかが本件の争点である。

成立について争のない甲第一〇号証(引用例にかかる英国特許第五七六、二八三号明細書抜粋の原文)によれば、引用例の記載として、(a)「開口の近くに口縁のある壜、管あるいは端の開いた他の中空容器類は、熱軟化性、熱接合性および熱展伸性を有する薄膜(a piece of heat-softend heat-sealable and heat-stretchable film)、たとえば塩酸ゴム――それはステアリン酸プチルを<省略>ないし<省略>含むものでもよい――の薄膜を、たるまないように張つて保持し(held taut)、はじめに容器の口縁をその薄膜に押し込んで(by pushing into)、薄膜に接触させながら容器を回転し、こうして薄膜を口縁のまわりと下とに伸張しつつ、巻きつけて、封じられる。薄膜は、このようにして第一図に示された関係位置から第二図に示されたものとなり、そこで、余分な部分を取り除いてよい。」…………(b)「この工程は、コルク栓やゴム栓等が開口を封ずるために用いられている場合にも使用しうる。」と訳出することができる。

(一) そこでまず、本願実用新案の要旨中の「包被材(1)を栓板(4)を嵌着した壜口(3)に被覆し、周囲に折畳み皺襞(A)を設け」る点について考える。

引用例の末尾に前示(b)のとおり記載されているところから考えて、引用例も本願実用新案と同様に、栓をした壜口を包被材で被覆して形成する帽体に関しうるものであることが明らかである。ところで、原告は、本願実用新案においては、壜体の外周側面にのし状に規則的に重ね合わせられた包被材の折畳み皺襞が形成されると主張する。成立に争のない甲第二、第六号証と弁論の全趣旨とによれば、右にいわゆる「折畳み皺襞(A)」とは、一枚の薄膜をもつて牛乳壜口を包被し壜体の外周側面の収縮部に適合させた場合に形成される薄膜のしわの下部が、規則的ではないが、原告のいわゆるのし状に、連続するαβγ三枚の薄膜の重合として、折り畳まれることを指すものと解するのが相当である。一方、引用例の帽体においても、壜類の口縁を薄膜に接触させながら壜体を回転した場合、口縁と薄膜との間の摩擦力の大きさと薄膜をたるまないように張り保持する力の大きさとを相関的に適宜按配しながら、薄膜を口縁のまわりと下とに伸張しつつ巻きつければ、本願実用新案におけると類似のしわないしひだを生じ、帽体の下方にいたるに従つてひだが深くなるように構成しうることは、見易いところである。したがつて、本願実用新案における折畳み皺襞は、原告の主張するように「折畳み」の点に特段の意味を有するものと解することはできず、ことに、薄膜の皺がのし状に規則的に重ね合わせられるといつても、これが登録請求の範囲に記載されていないし、その主張にかかる規則的なのし状のひだとしたことについての首肯しうる特別の効果も明らかにされていないから、この点についての原告の主張は認めることができない。

(二) つぎに、本願実用新案においては、「熱処理により、折畳み皺襞を接着する」。一方、引用例においては、包被に用いられる薄膜が塩酸ゴム等の熱軟化性、熱接合性および熱展伸性を有する薄膜である旨記載されていることは前示のとおりである。そして、塩酸ゴムがある温度に加熱されるときは軟化し接着剤を使わなくても電気アイロン等で圧着できるため包装材としてきわめて便利であることが本願実用新案出願前周知であつたことは、原告の明らかに争わないところであり、原告も自認するとおり塩酸ゴムは熱接合性はあるが加熱しなければ自然に自己接着することがないこと、引用例の刊行物が、英国特許明細書の抜粋であつて特許発明の要旨のおおよそを抜き書きしてまとめたものと解すべき性質のものとして読むべきものであり、ひいて、そこに包被材として用いられる薄膜についてheat-softened(「熱軟化性」)heat-sealable(「熱接合性」)と記載されている場合、この薄膜の性質は、必要に応じ技術上利用すべきことすなわち加熱軟化し接合することを当然含んだ趣旨で指摘されているものと解すべきであることを考え合わせれば、引用例の前示( )の部分の記載が、常温の加熱しないままの塩酸ゴム膜等を包被に用いる趣旨のものでないことは、引用例が壜口を封じてその図面に示すような壜体に適合する壜帽を形成しようとするものである(後出第(三)項参照)ことに徴しても、明らかである。したがつて、引用例の記載が、加熱し軟化された状態で皮膜のひだを相互に接着する趣旨を包含しているものと解するに少しも妨げがない。なお、本願実用新案においては、皺襞を設けた後に熱処理によつてこれを接合するのに対し、引用例においては、皺襞形成と同時にその熱接合が行われるとしても、それは、実施の方法についての差異であり、実用新案の関する型の構成の差異ということはできない。

両者は、ここにおいても差異ありとするに足りない。

(三) また、本願実用新案においては、折畳み皺襞を相互に接着するとともに「壜口外周側面の収縮部に適合する形状の帽体を形成」する。けれども、引用例においても、前示甲第一〇号証引用例の原文に記載された第二図によれば、薄膜により封じられた壜体には壜口の外周側面に斜の方向のひだが形成され、これが壜口外周側面の収縮部に適合する形状を有するものとされていることが認められるから、この点においても、引用例の記載は、本願実用新案の構造を含むものということができる。

(四) なお、原告は、本願実用新案においては、各皺襞における連続するαβγ三枚の皮膜が加熱圧着されその表裏がたがいに密に接着され、これらの強固に接合された皺が壜の頸部外周側面に縦に並列されて帽体を形成するから、帽体は、じようぶで壜の頸部を緊縛し容易に壜体から脱落しない効果があると主張する。けれども、引用例においても、本願実用新案におけると同じく、一枚の薄膜により帽体を作り出すものであるから、連続する三枚の皮膜による重合部が右と同様に生ずることは明らかであり、また、皺襞が縦方向に形成された本願実用新案のものと、それが斜め方向に形成された引用例のものとのいずれが壜体の頸部緊縛の度において強固であり脱落しにくいかは、熱接合の度合すなわち実施方法のいかんにかかることであつて、皺襞が縦であるか斜めであるかの型の構成上の差異によるものとは認め難く、もともと、本願実用新案における皺襞が引用例のそれに比して特段の差異があるとし難いことはさきに判断したとおりであり、また、本願実用新案においては皺襞の方向について限定がないから斜めのものも包含されると解され、いずれにしても、両者に差異を認めえない。

その他、皺襞を相互に接着するので包被材を壜口の外側周面に被覆するだけで壜口を包被しうることも、特に糊付けをせずまた細条でいちいち結束する手数が省け包装操作を著しく簡易化しうることも、両者において差異がない。また、本願実用新案においては、皺襞を相互に接着して壜口の外周側面の収縮部に適合する形状の帽体を形成する操作が、自動包装機等を用いることによりきわめて容易であるといつても、これは、右の包装操作についてと同様、帽体を形成したり包装したりする方法の効果であつて、本願実用新案の型の構成自体が、前示のとおり認められる引用例の場合に比して、そのような効果を有しているものと認めることはできない。

右のとおりである以上、本願実用新案は、すでに、引用例に当業者において容易に実施することをうべき程度に記載されているか少くともそこに記載されたものに類似するものと認めるにじゆうぶんであり、したがつてまた、本願実用新案における包被材と包被の方法との組合せの新規性も問題とするに足りないことが明らかであるから、結局、本願実用新案が旧実用新案法第三条第二号に該当し同法第一条の登録要件を具備しないものとした本件審決は、相当であり、その取消を求める原告の本訴請求は、理由がないから、これを失当として棄却することとする。

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